タイトル 飯田市の家 M邸
所在地 長野県飯田市 
仕様 木造2階建て 
建築規模  185.35㎡
施工会社 神稲建設株式会社 
竣工年 2011年6月 

この家を計画するに際して、それまでマンションの3階に住んでいたお施主は、1階に住むことに対して漠然とした不安を抱いておられました。そのようなお話をうかがったあと、事前調査のため建設予定の敷地を訪れました。するとそこは風越山の麓に位置しており、標高は中心市街地よりもかなり高いけれど敷地周辺に建物が隣接しているため、街への眺望が楽しめるというような敷地ではないことが確認できました。このことから、お施主の不安を和らげるために閉じられた空間を確保するとともに、そのことにより生じる空間の閉塞感を解消することを主な課題として設計する必要があると考えました。

そこでまず、交通量の多い敷地の南東に庭を配置しました。そして、庭の外側に周辺からの視線を遮ることができる高さの塀をめぐらしました。このことで、敷地内にプライバシーが完全に守られた空間を確保することができました。次に、その庭を取り囲むように台所、食堂、居間および和室をL字型に配置しました。そして、それらの部屋に庭へ面した大きな開口部を設けました。このように設計することで、大きな開口部による開放感と、閉ざされた庭による安心感を同時に満たすことができました。

「閉ざしながら開く」という相反した要素を同時に満たすことを目的として設計した結果、緑豊かな庭は、取り囲むすべての部屋に光と開放感を与えるとともに、周囲の視線を遮ることにより室内と庭が連続した安心感のある空間が生まれました。そして、L字型に繋がった各部屋にはほど良い距離感がうまれ、居心地の良い家族の拠りどころがいくつもできあがりました。

この家を設計中に発生した東日本大震災は、家族の絆や地域の人々のつながりが私たちにとっていかに大切なものなのかということを改めて教えてくれました。そして我々建築家は、まるで工業製品のように大量生産・大量消費されてきた住宅をとりまく現状を真摯に見直し、家族が本当に幸せになれる「拠りどころとしての家」を作ることに力を尽くすべきだとの思いを新たにしました。

arai